池内恵の中東通信
池内恵(いけうちさとし 東京大学教授)が、中東情勢とイスラーム教やその思想について日々少しずつ解説します。
トルコのイスタンブールに滞在している。 9月半ばに1週間ほどイスラエル・テルアビブに滞在し、客員研究員の資格も与えられている国家安全保障研究所(INSS)で今後の共同研究の打ち合わせ、INSSに日本から高名な先生を迎えて中国問題のディスカッションを設定するなどしたが…
現在の中東政治・外交の共通の課題を表す概念を一つだけ挙げるならば、"de-escalation"だろう。これをどう訳すか。「緊張緩和」とでも訳すのが無難だろうが、あえて『フォーサイト』では国際政治に慣れた読者も多いと思われるので、「脱エスカレーション」としておきたい。「…
中東で生じている大きな変化を、これから折に触れ、抽象化して記していきたい。 見るべき重要なポイントは、中東地域の政治・国際関係の基調が「非国家主体から国家主体へ」と転じたという点だろう。 2001年の9・11事件以後、イラク戦争後の混乱を経て、「アラブの春」の動…
またも「中東通信」欄の更新が滞ってしまった。しかも今度は長期に留守をした。待っていただいていた読者の方々には深くお詫びしたい。それでもなお待ってくださるという編集部の皆様には感謝の言葉もない。 勤め先の東大先端研に設立した、「大学発・外交安全保障シンクタン…
2022年も大晦日となった。フォーサイト編集部からは、各種の寄稿の打診や企画のお誘いをいただくが、学内シンクタンクROLESの組織運営や海外拠点形成にかかりきりで、反応できないことが多くて心苦しいところである。 昨年はこの「中東通信」欄に、12月に一気に10本の…
イスラエル国会(クネセト)が、12月29日、ネタニヤフ元首相が率いる議会第一党リクード党(議席総数120のうち32議席)が極右政党や宗教政党と組んだ連立政権を承認し、ネタニヤフが政権に返り咲いた。イスラエル政治史上、最も右寄りの政権が誕生した。11月1日に行われた3…
先日この欄に記したトルコのイスラエルとの「和解」は、イスラエルが陰に日向に音頭をとって形成してきた「トルコ包囲網」を構成する主要国に、エルドアン大統領がいわば「詫びを入れる」行脚の延長線上にある。トルコの台頭と孤立 トルコのイスラエルとの関係は、トル…
8月31日である。終わっていない「夏休みの宿題」の一つが、7月末に英Economistの付録雑誌1843 Magazineに、この「夏の読み物 (summer reading)」の一つとして掲載されていた、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子に関する長文の記事である。Economistの…
イスラエルのベニー・ガンツ国防相が8月25日から27日に米国を訪問し、フロリダ州タンパの米中央軍司令部でマイケル・クリラ司令官と会談し、ワシントンDCでジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官等と会談する模様だ。 イスラエルの国防相は頻繁に訪米するた…
先ほどこの「中東通信」欄に「トルコとイスラエルは不承不承に関係を修復」を寄稿して、ここ半年余りのトルコ・イスラエル外交関係の進展について記事をまとめておいた。 このまとめを行ったのは、トルコ・イスラエル関係、特に2020年ごろから焦点となっている「東地中…
8月17日にトルコのエルドアン大統領とイスラエルのラピド首相が電話会談を行い、4年前の2018年に相互に退去させて以来不在となっていた大使・総領事を双方が任命することにより、両国が十全な外交関係を回復することを確認した。8月19日にはトルコ・エルドアン大統領とイス…
3月以来、イスラエルと東京の往復生活を続けている。現在は3回目の渡航に向かうところである。 3月の渡航で、2020年以来、新型コロナ禍による渡航制限で伸び伸びになっていた、テルアビブ大モシェダヤン中東アフリカ研究センター(Moshe Dayan Center for Middle Easte…
この欄を「留守」にしていた間に注力していた研究事業についてなど、いくつか雑観を記すことを許していただきたい。 最近は「書き手」「演者」として最前線に立って発言するよりも、大学という場を、時代の変化にふさわしい形で再構成していくための「裏方」の作業が多くなっ…
昨年末に続けざまにこの欄を更新して、日々の観察記録だけでなく数年・数十年単位での変化の諸相をまとめてから、3カ月が経ってしまった。この前後は、細かく記すことは相応しくないが、職業上「とにかく忙しかった」としか言いようがない。この欄の更新を粘り強く待ってくだ…
2021年の中東を回顧するこのシリーズも、10回目でひとまず区切りとしたい。年末までにまた大きな動きがないことを祈るばかりである。 締めくくりに、2021年にはトルコのエルドアン大統領の権勢に、ついに翳りが見られてきた点を、挙げておきたい。「2023年」の共和国建国100…
イスラエルでは2021年6月13日、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が退陣した。1996年に初めて首相になって以来、四半世紀にわたってイスラエル政界の「顔」だったネタニヤフがついに政権を手放したことは、今年の中東の重要な出来事として、記しておかなければならないだろう。 ネ…
2021年の中東を記録する時に、イランで保守強硬派のエブラーヒーム・ライースィーが大統領に当選・就任した点を書き漏らすわけにはいかないだろう。ライースィー大統領就任が、イラン政治と政治史においてどのように描かれることになるか、いわばどのように「記憶」されるかは…
2021年の中東の環境・エネルギー問題を、後の時代に振り返るなら、サウジアラビアのアブドルアジーズ・ビン・サルマーン石油相(サルマーン国王の子)が6月1日に行った「ネット・ゼロ計画はラ・ラ・ランドだ」という発言が、この年の奇妙な状況を俯瞰する象徴的なものとして、…
2021年の中東を回顧するならば、すでに論じ尽くされたように感じられたとしても、やはり8月30日に米軍のアフガニスタンからの撤退が完了し、それによって象徴的に「対テロ戦争」の20年が終焉を迎えた点を挙げておかなければならない。アフガニスタンは中東か? そもそも「ア…
「中東版クアッド」をご存知だろうか。 10月18日に、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相が、イスラエルを訪問してヤイル・ラピド外相(交代制の次期首相でもあり、連立政権の組閣主導者である)と会談した。これに合わせて米国のアントニー・ブリンケン国務長官と…
- 24時間
- 1週間
- f
-
1
はたして少年A=酒鬼薔薇聖斗は、更生しているのか
- 2 「現代の怪物」の秘密に迫る:満100歳を迎えたキッシンジャー氏の裏の顔
- 3 「ハマスに騙された」と元イスラエル情報機関長官:戦場に残されたインテリジェンスから深層判明
-
4
「中国に日本のコメを食べてもらおう」が甘い考えである理由――「ジャポニカ米」国際市場の最新動向
-
5
日本銀行「舞台裏の司令塔」、内田副総裁の細心と野心
-
6
川口・蕨の「クルド人」コミュニティで何が起きているのか
- 7 サンパウロ「リベルダージ」の日本人街を復活させた「日本文化の浸透力」
- 8 ロシア・ウクライナ戦争の潮目が変わった?――領土割譲で停戦という「不都合な選択」
-
9
「任那日本府」の何が問題か
-
10
外交・安保を誤った白村江の戦い なぜ中大兄皇子は猪突したのか