[ロンドン発]英国のゴードン・ブラウン財務相(五三)の在任期間が六月十五日で七年四十四日となり、二十世紀以降、英国の財務相としての最長記録を更新した。 在任記録更新は、堅実な財政運営の結果であり、誇るべき記録ではある。しかし、首相の座を目指しているブラウン氏にとっては、財務相としての在任長期化は「待合室での軟禁」でもあり、素直に喜ぶわけにはいかない。 話は十年前にさかのぼる。一九九四年五月、労働党のジョン・スミス党首が急死した。その直後、ロンドンのスペイン料理店「グラニータ」で、ブラウン氏はトニー・ブレア氏と二人っきりで食事をした。当時、労働党は野党で、ブラウン氏が「影の財務相」、ブレア氏が「影の内相」を務めていた。二人とも一九八三年の総選挙で初当選、やがて「労組依存からの脱却など党改革が急務」と声をあげ、改革派の旗手になった。 党首選で、誰を改革派の統一候補者にするかが、会食の最重要議題だった。二人とも有力候補とみなされていた。二歳年上のブラウン氏がブレア氏の「兄貴格」だったが、切れのある弁舌と実行力でブレア氏の株も急上昇していた。結局、この会食の席で、ブラウン氏はブレア氏に党首選立候補を譲り、その代わり、ブレア氏は経済政策をブラウン氏に全面的に任せ、さらに近い将来、党首の座を譲ると約束したといわれている。「グラニータの密約」と呼ばれるこの密約の存在を当事者二人は認めていないが、政界は「密約」を前提に動いてきた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。