EU新加盟国が陥る“液状化現象”

執筆者:北村隼郎2004年9月号

通貨ユーロの導入を目指すさらなる改革を前に、国民の不満を掬い上げる“アンチEU政党”が躍進する事態も起き始めている。[ワルシャワ発]中欧諸国で、政治の液状化現象が起きている。今年五月一日、欧州連合(EU)加盟という形で「欧州回帰」を果たし、歓喜に沸いたばかりの中欧諸国。だが、ポーランドやチェコでは、EU加盟実現に尽力した首相が逆に人気を落として退陣に追い込まれ、過激な主張を掲げる大衆迎合政党が勢いを増している。低コストの生産基地として今や日米欧企業の欧州戦略上かつてなかったほど重要な地域になった中欧諸国で今何が起きているのか。「共産政権時代の方が今よりはるかにましだった」「政府は、EU加盟交渉を直ちにやり直せ」「外資への国有企業売却を即刻中止せよ」――。五月一日のEU加盟から日も浅い今年六月初め、初の欧州議会選の投票を控えたポーランド各地で、こんな過激なスローガンを掲げる一人の男に、多くの有権者が熱烈な拍手を送る場面が見られた。 銀髪中背でがっしりした体格。いかにも農民出身という雰囲気のその男の名はアンジェイ・レッペル(五〇)。元は養豚農家だったが、一九九一年に地方の中小農家の権益擁護を掲げ、その名も「自衛」という組織を結成。その後、組織を政党に衣替えし、歴代ポーランド政府が進めてきたEU加盟路線を徹底批判してきた。これが、改革の恩恵に浴すことのできない一般大衆の支持をつかみ、議会初進出を果たした二〇〇一年の下院選では、いきなり五十三議席を獲得して第三党に躍り出た。

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