域内格差に「利上げ」を縛られるECBの苦悩

執筆者:石山新平2004年9月号

ユーロ圏の経済が一体化してこそのECB(欧州中央銀行)。「全体」を優先する政策に独仏などが反発し、その独立性が脅かされる事態に――[フランクフルト発]二〇〇二年一月に欧州で単一通貨ユーロが流通し始めて二年半余り。ユーロ導入十二カ国は最大の経済主権ともいえる通貨発行権を放棄、欧州中央銀行(ECB)が唯一の「通貨の番人」となった。 ところがここへきてユーロ圏域内の物価上昇率や成長率の格差が拡大、ECBの金融政策を巡る各国政府の不協和音が響き始めた。ユーロ高に象徴される「EUの成功」とは裏腹に、「成熟地域」の色彩を強めるドイツ、フランスなど大国のいらだちは募る一方だ。域内格差の拡大は、ECBの存在そのものを揺るがしかねないところまで来ている。「スペイン・ユーロが強いね。あちこちで見かけるよ」――。この夏、欧州の各地でこんな声が聞かれる。単一通貨ユーロだが、実はコインの裏側だけ各国ごとにデザインが違う。ドイツなら国章のワシ、オーストリアならモーツァルト、イタリアはコロッセオ(古代の闘技場)などと、さりげなくお国柄をアピールしている。もちろん同じ一ユーロならユーロ通貨導入国どこでも使える。流通から二年半余りが過ぎ、そのユーロ・コインが少しずつ国境を越えて混ざり始めているのだが、中でもスペインのカルロス国王の肖像入りユーロ・コインがイタリアやフランス、ドイツなどに「進出」しているというのだ。もちろん、特に観光地においてその傾向が強いなど、まだまだ経済全体の動きを分析する材料には使えないのだが、庶民感覚のレベルで言えば、スペインの景気がいいことの傍証になっている。

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