「大規模デモ」の圧力が次々とアラブ諸国の政権を揺るがす中で、世界的な関心は「果たしてこれがサウジアラビアに及ぶのか」に集約される。これは中東専門家だけでなく、経済アナリスト、そして(日本にはほとんど存在しないが)政治リスク・アナリストが、世界中で解こうとしている、文字通り「100万ドルの質問(million-dollar question)」である。  西欧諸国にはリビアの石油減産は一時的に打撃となるが、日本も米国もほとんど依存していない。しかしアルジェリア、そしてサウジアラビアまでが減産を迫られるような統治体制の動揺に見舞われれば、石油市場の急激な高騰を通じて、世界経済に大きな打撃を与えかねない。 「サウジだけは大丈夫だ」という説もある。しかしこの一連のアラブ政権の崩壊・動揺は、政治体制や経済水準を越えて各国に及んでいる。アラブ共通の政治体制・政治文化に対する大きな挑戦が、情報コミュニケーション・ツールで武装した若者を起爆剤に、各国の社会の広範な層に及んでいると見ていい。少なくとも、「サウジだけは大丈夫だ」という判断も、従来得ていた情報のみを頼りになされるのであれば、たとえ結果が当面は合っていたとしても、中長期的には根拠が脆弱な見方となっていくだろう。表面上の経済データだけでなく、政治体制と社会階層・思想に及ぶ現場からの精査が不可欠になる。  筆者の知る限り、「サウジに混乱が及ぶのか」という問いに、現時点で説得的かつ確定的に答えている人は、世界の優秀なアラビスト・アナリストの中にはいない(非公開の場で巨額の報酬の代わりに分析を提供していることはあるかもしれないが、筆者は残念ながらそのような場には居合わせていない)。  もちろん、アナリストにとって真価を問われる質問であるかどうかというのは瑣末な問題であり、重要なのは、サウジ王制が、その支配体制を維持できるか否か、存立の根拠を問われる正念場に立たされていることである。  3月11日に「怒りの日」と銘打った大規模デモに結集しようという呼びかけが、インターネット上でなされている。3月20日にもデモが計画されているという情報があり、サウジ政府はこれらを食い止めようと、硬軟両面で必死の対処策を講じている模様だ。その対処策の成否が直近のデモの規模と求心力を左右すると見られる。また、たとえ政府が従来型の政策の延長でかなり思い切った施策を発表したとしても、それとは別の社会経済・政治的前提から問題が表面化して、やはりデモという形で表現される可能性もある。  そもそも、サウジ政府が社会の実情や近年の変化に見合った適切な対策を考案できるかどうか、できたとしてもそれを実施する行政機関の手足が実際に働くかどうかは、いずれも未知数であり、若干の懸念がある。適切な社会経済政策が考案され、迅速に実施されるような体制であれば、そもそも大規模デモを招くような事態には陥っていないだろう。

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