欧州危機で景気低迷するインド経済の活路

執筆者:森山伸五2012年6月29日

 インド景気の落ち込みが目を引いている。昨年度(2011年4月-12年3月)の成長率は6.5%と前年度の8.4%から急減速、とりわけ今年1-3月期は5.3%まで低下した。同四半期の工業生産はマイナス0.3%となった。景気悪化の最大の要因は言うまでもなく、ギリシャに端を発した欧州の債務危機だ。
 インドにとって欧州は国・地域別では最大の輸出先。10年の輸出実績でみれば英国向けの64億ドル(5100億円)、オランダ、ドイツ向けの各60億ドルなど欧州連合全体で輸出の15%以上を占めている。米国の10.4%、ASEAN向けの10.3%、中国向けの7.9%を大きく上回っている。欧州危機の影響で、中国や他のアジア諸国の景気に急ブレーキがかかっていることもインドには打撃となっている。

製造業の輸出攻勢が示す「インド経済の転換点」

スズキなどの攻勢で輸出は急速に拡大している(c)AFP=時事
スズキなどの攻勢で輸出は急速に拡大している(c)AFP=時事

 インドと中国は大人口を抱える新興国として共通性も多いが経済構造は大きく異なる。中国が外資の製造業を戦略的に導入、輸出主導型で急成長したのに対し、インドは製造業は弱体で、輸出産業の主力は繊維と宝飾品、後発医薬品などにとどまり、建国以来、慢性的な貿易赤字国。11年の中国の貿易黒字がピークの08年からほぼ半減したとはいえ1551億ドルだったのに対し、インドの11年度の貿易収支は過去最大の1849億ドルの赤字を記録した。  インドは毎年の貿易赤字を海外で働くインド人からの送金とソフトウエア、システム構築、ネットワーク管理などのITビジネスとコールセンター、伝票入力などBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)と呼ばれる受託事業で埋め合わせてきた。  ただ、近年はインドも外資の輸出型製造業の進出加速とタタ・モーターズ(自動車)、バジャージ・オート(自動二輪)などインドの民族系メーカーのグローバル市場開拓の進展もあって、輸出は急速に拡大しており、昨年度も20.9%の伸びを記録している。  目立つのは日系の自動車メーカーの輸出攻勢だ。インド国内市場でシェアトップのスズキは「スイフト」などのグローバル戦略車をインドから欧州、アフリカなどに輸出。10年にタミルナド州チェンナイで工場を稼働させた日産自動車は「マイクラ(日本名:マーチ)」を欧州などに向け年間10万台以上輸出している。  第3次産業が第2次産業を圧倒し、慢性的な貿易赤字というインド経済の構造問題は大きく転換しつつあった。今回の欧州危機の打撃をインドが強く受けたことは、インド経済が個人消費と固定資本形成のみに依存する成長から、外需も成長要因とする経済への転換点だったことを示していよう。

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