丹羽前中国大使『北京烈日』の消化不良感

執筆者:野嶋剛2013年7月13日

 東北に行く用事があり、新幹線の道中でちょうど読み切れるぐらいの本が欲しいと思って、図書館で、丹羽宇一郎前中国大使の書いた『北京烈日 中国で考えた国家ビジョン2050』を借りた。激動の日中関係のまっただ中で、丹羽氏が何を書いているのか、興味津々でページをめくったが、正直言って消化不良の印象だけが残った。

 書いている内容がつまらない、というわけではない。日中には安定的な関係が必要で、尖閣諸島問題でも係争があることを認め、話し合いを続けるべきだ、という主張には、個人的にも同意するところが多い。丹羽氏の語る経済ビジョンについても、なるほどと思わせる箇所が少なくない。

 しかし、問題は、この本が2つの別々の視点から書かれているところだ。中国大使という外交官としての視点と、元伊藤忠商事経営者の経済人としての視点である。

 序章「北京の空気」でPM2.5問題を、第1章「尖閣諸島問題のあとさき」で尖閣問題をそれぞれ書いたあと、第2章から第5章までは、日本経済と世界経済についての丹羽氏の分析とビジョン内容になる。そして第6章、第7章で再び中国について書いている。

 しかし、どう読んでみても、この2つの内容が有機的に結びついていない。

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