三日後に告示が迫った衆議院統一補欠選挙のテコ入れのため、小泉純一郎首相と岡田克也民主党代表がともに福岡二区入りし舌戦を繰り広げた四月九日、海を越えた北京では、選挙戦の喧騒など及びもつかない騒然とした空気が街を包んでいた。 日本の国連安全保障理事会常任理事国入り反対や、四月五日に検定結果が発表された日本の中学校の歴史教科書をめぐる「歴史改竄」批判をインターネット上で繰り返す反日団体の呼び掛けで、午前九時(日本時間同十時)すぎに数百人規模で始まった抗議デモが沿道のやじ馬を巻き込んで雪ダルマ式に拡大。午後には市中心部の日本大使館につながる複数の大通りを埋め尽くし、片側は車が全く通れない状態になっていた。 地鳴りのように響く「打倒小日本」「日本製品排斥」などのシュプレヒコール。暴徒化した一部の参加者は沿道の日本料理店に石を投げ込み、日系企業の街頭広告を引き裂いては歓声を上げた。日本大使館は午後四時前から六時間以上にわたりデモ隊に取り囲まれ、投げ込まれた無数の石やペットボトル、ビール瓶などで窓ガラスが次々に割られる事態に発展した。反日デモは中国当局の「お墨付き」 経済制裁発動に至った一九七九年のイランの米国大使館占拠・人質事件を持ち出すまでもなく、「大使館襲撃」はウィーン条約違反の重大な国際問題である。そもそも対象が大使館でなくとも、中に人がいる建物に石を投げ込む行為は、警察が検挙してしかるべき万国共通のれっきとした犯罪行為だ。にもかかわらず、中国の警備当局は見て見ぬふりをし続けた。大使館の周囲には完全装備の武装警察部隊(軍)など千人を超す警察官が配置に付いていたが、動かざること山の如し、飛び交う石ころが自分に当たらないように注意を払っていただけだった。

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