この夏、航空自衛隊初の女性将官が退官した。顔を合わせれば言葉を交わす知己であり、感慨深くまた真にご苦労様でしたと言いたい。一方で、2013年NHK大河ドラマ「八重の桜」の主人公山本八重は、今で言えば女性軍人として銃を手に官軍と交戦したが、会津が敗れた後、明治維新の変容に目覚め一念発起、明治期には数少ない女性の教養人として成長した。彼女たちは女性の軍事エリートでもあった。

 

 さて、ナチスに関わる閣僚の発言が物議を醸した。政府高官や国会議員の発言は1度、口から出てしまえば発言者の意図を超えて世間で1人歩きする。もちろん、政府高官の発言は大いに問題があるが、この1件を自ら省みる教訓ともしながら、「女性と政治・軍事」という文脈の中でヒットラーの台頭について考えてみる。

 

 ワイマール憲法では、20歳以上の男女に選挙権が与えられたが、イギリスやフランスに先駆けて女性の政治関与の権利が認められたことは、この憲法の民主的成熟度を示す具体例として指摘される。

 

 ヒットラーはこの女性参政権を実にうまく活用した。彼は演説の会場やパレードの沿道では意識的に女性を最前列に配して熱狂、陶酔させ、その姿を映像に撮り、劇場での放映を通じ女性応援団を増やしていく手法をとった。今で言う女性の追っかけ集団を育てる作為である。そして、ヒットラーの政治活動をミュンヘンの社交界、実業界の上流階級婦人が熱心に後援するところとなった。この後援活動が組織化されれば、そのメンバーとなった婦人たちは上流社会の仲間と見られるわけであり、その輪の拡大がヒットラーの権力獲得の大きな力となったことも歴史的な事実である。

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