北方領土を戻さないプーチンの来日

執筆者:名越健郎2005年11月号

[モスクワ発]ロシアのプーチン大統領は九月二十七日、テレビ会見に出演し、六十以上の質問に三時間にわたって答えたが、最初に飛び出したのが北方領土問題だった。質問の大半は内政で、外交は日露関係とバルト三国在住ロシア人の人権問題だけ。十一月二十日からの訪日を控え、重要メッセージを先に発信する意図的演出だった。「北方四島はロシアの主権下にある。それは国際法によって確定され、第二次世界大戦の結果だ。これについて議論するつもりは一切ない。この立場から交渉を行なう。……領土問題は両国にとって繊細な問題だが、善意があれば、双方を満足させる選択肢を見出すことは可能だ。互いに歩み寄れば、解決策は発見できる」 四島の主権協議を拒否する強硬な前段は国内向け、双方の譲歩を求める後段は日本向けに使い分けたようだが、力点は前段にある。『独立新聞』は「北方領土問題とバルトのロシア人問題は国際政治に影響はないが、内政と密接に絡んでいる。(政権交代の)二〇〇八年問題を控え、大統領は民族愛国主義調で語った」と書いた。北方領土領有を「第二次世界大戦の結果だ」と戦勝者意識を前面に出したことは、夏以降ロシアで強まる反日キャンペーンに自ら加担した形だ。

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