ウエスチングハウス買収合戦を制した東芝と、敗れた三菱重工との分かれ目――それは「希少性」の評価基準がまったく違うことだった。 世界の大型M&A(企業の合併・買収)では、近年まれにみる「大逆転」といっていい。東芝は英核燃料会社BNFLが保有する米原子炉メーカー、ウエスチングハウス(WH)を五十四億ドル(約六千四百億円)で買収した。今後、米政府の承認などが残るが、東芝がWHを傘下に収めて世界トップクラスの原子炉メーカーになるのはほぼ間違いない。 先月号既報のように三菱重工業が圧倒的有利とみられた買収合戦で、東芝が大逆転を果たしたのはなぜか。その背景には世界の原子力産業の持つ複雑さがある。経済学は「希少な資源を管理する学問」とも規定される。限られたモノを分ける時、それを高く評価し高い対価を払った者に与えるのが経済学だ。WH買収劇の結果を分けたのは、まさに希少性をめぐる価値判断の差、言い換えれば「原子力産業の経済学」だった。 WHのブランドと米企業としての政治的影響力は大きな魅力であり、それが他社の手に渡るリスクを考えれば、三菱重工はもちろんWHを買収したかった。だが、WHの希少性に関しての判断は「資産評価に基づく買収価格」を優先した。同じ加圧水型軽水炉(PWR)メーカーとしてWHと長年、連携してきた三菱重工にとって、WHは「もはや学ぶべきことも依存する技術もない企業」にすぎず、資産価値以上のものを見出しにくかったからだ。

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