切るべきものを切れず、主力の分野も不安だらけ。債権者・大株主の利害は複雑にからみ、経営陣の足並みも揃わない。三洋の行く末は――。「非常に厳しい決算だったが、過去を引きずる体質に決別し、本当の意味でスタートを切れる態勢にした」 五月十八日、監査法人や金融機関への根回しなどに手間取り、松下電器産業やソニーなど大手電機各社から約一カ月遅れでこぎつけた決算会見の席上で、三洋電機の井植敏雅社長はそう大見得を切った。 だが、その言葉を額面どおり受け取る向きは少ない。 最終損益は二千五十六億円の赤字。昨年十一月時点での見込み(二千三百三十億円)から赤字を三百億円近く圧縮できた格好である。ただ、それはふたつの僥倖に助けられてのものだった。 まず、大量退職に伴う年金債務の処理方法だ。もともとは向こう三カ年で一万四千人の人員削減を計画していたが、債権者であり、かつ大株主でもある取引金融機関の要請に従い、前倒しで今年三月末までに実施した。リストラに伴う早期退職者の年金債務は一括償却するのが通例だが、監査法人から分割償却が認められたため、損失額が二百億円強縮小した。 また、景気回復で膨らんだ保有株式や不動産の売却も積み増した。三洋側は、「(最大の赤字事業である)半導体部門や在庫などに対する減損処理をかなり厳しく見積もった」(前田孝一副社長)なかで赤字幅が減少したことを強調するが、社内には「年金債務の引き当て総額は変わらず、支払いが先に延びただけ。株の売却でお化粧するにも限度がある」と、冷ややかな視線を送る幹部もいる。

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