「宿題」をしない米国――TPP の政治経済学

執筆者:武内宏樹2014年7月11日

 交渉の停滞によるものなのであろうが、最近日本では環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership: TPP)をめぐる議論はやや下火のようである。この問題をめぐっては、日本ほどではないにしても、米国内でも賛成、反対双方から様々な主張が展開されてきた。

「経済連携協定」というと、自由貿易協定のようなイメージから、19世紀にリカードが提起した比較優位のモデルを引き合いにしながら、貿易の果実をどのように各国が享受できるようにするかということが焦点であるように考えられてきた。もちろん、多国間の貿易を促進して各国経済の成長に結びつけるという意味では、TPP を経済問題として論じるのはあながち間違いではないのであるが、筆者は、各国の国内政治事情を考慮に入れなければ、この問題の本質は何も見えてこないと考えている。そこで、TPP をめぐる米国の国内政治事情を考えてみたい。

 

スティグリッツ氏の問題提起

 今年3月15日付のニューヨーク・タイムズ紙に、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ氏(コロンビア大学教授)がTPP 反対の論陣を張るコラムを書いて話題になった【On the Wrong Side of Globalization(グローバリゼーションの間違った側面)】。さらにその2週間ほど前の2月27日には、同じくノーベル経済学賞受賞者で、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであるポール・クルーグマン氏(プリンストン大学教授)が、TPP 反対の主張を展開していた【No Big Deal(こんな合意はいらない)】。

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