友人の紹介で86歳の大動脈弁閉鎖不全症の女性の患者さんが三井記念病院に来院しました。某大学病院で診療を受けていて、「すぐに手術が必要」と言われたそうなのですが、誰にとっても心臓の手術は怖いもの。このおばあちゃんも、「手術以外に方法はないのか。どうしても手術は受けたくない。別の先生に診てもらいたい」と周囲に漏らし、まわりまわって、私の患者さんになることになりました。

 大動脈弁閉鎖不全症は、心臓に雑音が聞こえることで発覚するのですが、最初は、ほかに自覚症状らしい症状はほとんどありません。それもあって、おばあちゃんは、手術が本当に必要なのかと疑ったのかもしれません。

 同疾患は、心臓の弁がうまく機能せず、左心室に血液が逆流して左心室の大きさが拡張し、症状が進むと重度の心不全に陥り死にいたる場合もあります。手術としては、人工弁の置換が有効です。

 私が超音波で心臓の状態を見た結果、左心室のサイズはそれほど大きくなってはおらず、急いで手術をしなければならないという状態ではありませんでした。

「今すぐに手術しなくても大丈夫。少し様子を見ましょう」

 おばあちゃんにそう話すとえらく喜んでくれました。もちろん、手術をしなくても絶対に大丈夫というわけではありません。左心室が大きくなれば、手術が必要になる。とはいえ、必ず左心室が大きくなるとも限りません。もしかして、大きくならない可能性もあるわけです。手術には必ずリスクがあります。したがって、本当に必要な状況でなければ手術は行わないにこしたことはありません。

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