『凍土の共和国 北朝鮮幻滅紀行』金元祚著亜紀書房 1984年刊 一九五〇年代末から七〇年代初めにかけて、在日朝鮮人の北朝鮮への組織的な“祖国帰還”というのがあった。日本在住の約九万四千人の在日朝鮮人たちが、日本での生活を清算し北朝鮮に“帰国”したのである。当時、世界的には共産圏のソ連や東ヨーロッパから西側への脱出というのはあった。しかし在日朝鮮人の北朝鮮帰還のように、資本主義・自由主義世界から共産主義世界への“エクソダス(脱出)”というのはなかった。 それだけにこの“事件”は日本ではもちろんのこと、国際的にも注目された。帰還していった在日朝鮮人たちは「地上の楽園」と宣伝されていた北朝鮮での新しい生活に夢を抱き、「祖国での社会主義建設」に胸をふくらませ、「差別と偏見に満ちた苦労ばかりの日本」を出ていった。 日本社会もこれを大きく歓迎し、温かく(?)送り出した。とくに社会主義幻想と「朝鮮」に対する歴史的贖罪意識が色濃く残っていた当時のジャーナリズムはこれを歓迎し、応援した。また、在日朝鮮人をどこか“厄介者”視していた多くの普通の日本人たちも「結構なことだ」と歓迎した。この北朝鮮帰還事業は赤十字が担当した。

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