靖国は本当に中国の外交「カード」なのか

執筆者:田中明彦2007年5月号

 温家宝首相の訪日は、とどこおりなく終わって、日中関係は指導者同士の交流という面でいって、「正常化」に向かっている。今回は、とくに温家宝首相の訪日を機に、中国のメディアが大変積極的な日本報道を行なったことが、日中関係にとってはよかった。日本社会のさまざまな側面について、これほどバランスのとれた報道を短期間に行なったことは初めてではないか。 もっとも、一国の首脳にとって、外国訪問や首脳会談というのは「成功」させるのが当然なのであって、今回もその筋書きの通りに行ったということなのだろう。 ただ、このような首脳外交の成功にもかかわらず、依然として、日本国内には中国への不信感もある。とくに歴史問題に関しては、今は中国は穏健な態度をとっているが、いつでも「歴史カード」、「靖国カード」を切ってくるのではないかとの観測をいう人もいる。温家宝首相にしても、記者会見などでは、靖国問題などを示唆するようなことを言っているのではないか、というわけである。 たしかに、今後の日中関係について、中国側の対応が変わるということは当然ありうることなので、その点については、常に観察を怠らないようにしなければならない。 しかし、筆者は、中国が持っているとされる「歴史カード」とか「靖国カード」といわれる言葉について、最近すこし違和感を持つようになった。歴史認識問題とか靖国問題は、本当に中国にとって外交のための「カード」なのだろうか。こう思うようになったからである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。