「魚や貝にパスポートを持たせろとでもいうのですか」――中国政府幹部が、日本政府を揶揄した。四月、山口地検下関支部は、北朝鮮の港で積み込んだアサリを日本に輸入したとして、中国船の船長を北朝鮮制裁に関連する外国為替及び外国貿易法違反(無承認輸入)で起訴した。実は、北の漁船は部品や燃料不足で修理・出漁もままならず、北が入漁料を受け取り沿岸部での中国船操業を受け入れている。原油や食料ばかりか消費財の大半を北に供給し、鉄鉱石や金など地下資源への投資も加速中の中国は、北の水産資源をも占有し始めたのだ。中国による経済支配が進んでいる。 この幹部によると、物資窮乏にあえぐ北は、たとえば「繊維製品や救急絆創膏など簡単な医療品とバーター取引するために、大型底引き網漁船五十隻の入漁を認める」と中国の遼寧省政府に持ちかけるなど、二〇〇五年以降、水産資源の切り売りを急加速した。今春には、北がサンマやイカなど回遊魚介類が成魚期を迎える時期を前に一挙に百隻を上乗せすると持ちかけたため、遼寧省側は漁船の手当てに奔走し、山東省や浙江省にも応援を要請したという。「沿岸から十キロ以上沖への出漁は、軍の許可が必要らしいです」と幹部は北の内情を解説する。中国はバーター取引を断り「偽札が多いドルではなくユーロでの決済を要求する一方で、漁獲の一部を現物で北に引き渡す」ことで合意に持ち込んだという。「稲刈りに来てくれといわれれば、脱穀までやり遂げますよ」と幹部は笑い、北の経済的“植民地化”に手ごたえ十分の様子。日本政府の制裁措置をあざ笑うかのようだった。

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