目先の農業保護で日本が被るWTO潰しの悪名

執筆者:一ノ口晴人2007年9月号

貿易立国の日本を縛る農業への保護政策。本当の力をつけるための農政改革にもブレーキがかかり、ますます貿易交渉は不自由に――。 分水嶺の夏。十二年前に貿易自由化の推進役として発足した世界貿易機関(WTO)が、いま、その存在意義を問われている。加盟国の急増で発言力を増した発展途上国と「かつての大旦那衆」である日米欧との対立が先鋭化したためだ。「G4は死んだ。(米国、欧州連合、インドとは)もう会いたくない」(ブラジルのセルソ・アモリン外相)。六月にドイツのポツダムで開かれた主要四カ国・地域会合(G4)は、米国の農業補助金の削減をめぐって激しいののしり合いとなり、決裂。多国間協議の場(現在はドーハ・ラウンド)は空中分解寸前となっている。 ドーハ・ラウンドがギリギリの日程として目指す年内合意に失敗すれば、各国は貿易自由化交渉の軸足を一気に自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)などの二国間協議へと移すだろう。その場合、WTO体制は急速に空洞化する。日本は国内農業の保護を主張しWTOでの市場開放交渉に後ろ向きの姿勢を取り続けてきた。二国間協議では関税を原則ゼロとすることを迫られるため、従来の交渉以上に大幅な農産物の市場開放を容認しないかぎり、国際貿易の自由化の潮流から取り残されてしまう。

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