死者まで出た旧正月前後の大混乱。駆けずり回ったのは六十五歳の総理だった。その背景には、二〇一二年の党大会に向け早くも始まった争いがある。 発展の先頭を走ってきた広東省の経済特区・深センを象徴する超高層ビル「地王大廈」。六十九階の展望フロアへの有料エレベーターのチケット売り場に、この二月、「風雪中的温情」との掲示があった。「春節期間中、外来工は料金半額」だという。 一月上旬から中国南方を襲った建国以来の寒波・降雨・降雪で、鉄道ダイヤは大混乱し列車が相次ぎ運休。春節(旧正月)恒例の年に一度の帰省の足を奪われた農民工の多くは、出稼ぎ先にとどまらざるをえなくなった。党中央・国務院は、沿海部の党・政府に指令した。「春節期間の社会安定保持に全力を注げ」「映画館、遊園地、観光名所などは農民工を積極的に受け入れよ」。 おかげで、地王大廈展望フロアの窓際テーブルには、一目でそれと分かる若い女性たちがつらなっている。係員によると、彼女らの多くは朝一番に展望台に上り、閉館までねばる。暖房が心地よいのか、ほとんどがテーブルにつっぷし寝息を立てていた。「以前は退場を促したりしましたが、今年は乱暴に扱うなと厳命されていますので……」と係員。月給千元(約一万四千円)足らず、しかも大半を実家へ仕送りする農民工にとり、半額とはいえ展望台への入場料三十元は、思い切った「レジャー」だろう。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。