台湾「ホンハイ」の「シャープ買収」秘話

執筆者:大西康之2016年5月18日

 台湾、鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入るシャープ。2016年3月期決算で2559億円の最終赤字を計上し、債務超過に陥った末期症状の会社に、ホンハイはなぜ3888億円も投資するのか。背景には、ワンマンで知られるホンハイのテリー・ゴウ会長と、シャープの「伝説のエンジニア」の知られざる物語がある。

 

孫正義の「恩人」、ジョブズの「師」

「ああ、ゴウさんね。お父さんの代からよく知っとるよ」

 テリー・ゴウのことを尋ねると、彼はこともなげに答えた。

 佐々木正。1964年、シャープの創業者、早川徳次に乞われて同社に入り、「電卓戦争」の指揮を執った。現在も半導体の主流を占める「MOS-LSI(金属酸化膜半導体を使った大規模集積回路)」を民生品で初めて実用化した人物で、「電子工学の父」とされる。

 

 佐々木はこの半導体を米航空防衛大手のノースアメリカン・ロックウェルと共同開発した。ロックウェルの技術者たちは、佐々木の自由奔放な発想力に驚愕し、「ロケット・ササキ」の称号を与えた。半導体はアポロ12号に採用され、佐々木はNASA(米航空宇宙局)から「アポロ功績賞」を受けている。 

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