何度か来日経験もある「アジアで最も優秀な財務相」(C)AFP=時事

 

 財務相スリ・ムルヤニは、財政学を専門とする経済学者である。インドネシアでは、1966年のスハルト強権体制発足以来、経済学者から上級官僚や大臣に任命されて中央官庁に入り、経済政策の立案と運営を任される「経済テクノクラート」の伝統が連綿と続いている。スリは、その経済テクノクラートの本流に位置づけられる人物である。

 

「アジアで最も優秀な財務相」

 スリは、2004年のスシロ・バンバン・ユドヨノ第1期政権で初めて閣僚に就任したが、彼女の名声を一挙に高めたのが、2005年から2010年まで担当した財務相としての手腕であった。マクロ経済の安定と成長の加速のために彼女が発揮した行政手腕は国際的にも高く評価され、「アジアで最も優秀な財務相」、「世界で最も影響力のある女性」などに何度も選ばれている。しかし、その後政権内の政争に巻き込まれる形で大臣を辞任し、世界銀行の専務理事に転出していた。

 実は、ジョコウィ大統領は、2014年の政権発足時からスリに入閣の要請をしていた。しかし、2010年にリーマンショックの影響で破綻した銀行の救済策をめぐって、他の閣僚や議会から激しいバッシングを受けた経験があったため、彼女は決して首を縦に振らなかった。今回6年ぶりにスリが内閣復帰を決断できたのは、彼女の最大の政敵だったゴルカル党のアブリザル・バクリが政界の第一線を退くとともに、ジョコウィ政権の政治基盤が安定してきたからだと思われる。

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