中国が「香港故宮」で狙う「4つの意義」

執筆者:野嶋剛2017年2月6日
北京の故宮博物院(C)EPA=時事

 

 香港に故宮ができるという。正式名称は「香港故宮文化博物館」。昨年12月に北京の故宮博物院と香港の政府が覚書を交わし、実現が、あれよ、あれよという間に決まってしまった。しかも、その覚書を交わしたのは、次の香港のトップである香港行政長官の最有力候補である林鄭月娥氏であった。

 当時彼女は政務長官で、いまはすでに辞職し、3月下旬に行われる行政長官選挙のために奔走している。故宮計画は、中国から林鄭月娥氏への「支持表明」とも「プレゼント」とも取れなくない。

 そんな政治臭のするニュースを聞いて真っ先に思い出したのは、2015年、台湾の故宮博物院院長だった馮明珠氏に、インタビューをしたときのことだった。2011年に発表した『ふたつの故宮博物院』(新潮社)という本を、馮明珠氏は読んでいた。この本の主題の1つは「故宮と政治は切り離せない」だった。だが、馮明珠氏は私にこう不満を示した。

「あなたは政治と故宮を結びつけて書きすぎている。政治は政治、文化は文化。政治と文化は関係がないのよ」

 私も本来、政治と文化は関係がないと思いたい。しかし、政治は文化を利用しようとする。そして、文化も時に政治に近づく。ましてや博物館は、政治の力と資金で建設されるものだ。現代社会において、文化が政治から自由でいられることなど、ありえない。

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