昨年11月、トランプ氏(右)とニューヨークで会談した安倍首相[内閣広報室提供](C)時事

 米国のオバマ前政権で国防長官を務めたパネッタ氏は日本の大手紙のインタビューに応じて、トランプ米大統領について次のように述べている。
「唯一予測できることは、トランプ政権が予測不可能であることだ」
 安倍政権がトランプ氏に関してもっとも懸念しているのは、この予測不能という点だろう。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)離脱やメキシコ国境の壁建設、中東・アフリカから米国への一時入国禁止、在外米軍の駐留経費負担問題……と、「予測」を超えたトランプ氏の発言や大統領令は物議を醸してきた。特に日本に直接関係があるのは、TPPなどの貿易問題と在外米軍のあり方を含む安全保障問題である。
 このうち、安全保障問題については、マティス国防長官が来日した際に「日米の経費分担は他国のモデルになる」と述べ、日本の姿勢に高い評価を下したことで、日本側に安堵が広がった。残るは貿易問題である。

出方が読めない

 貿易問題は株式相場、為替相場を含めて日本経済に直接影響する。もちろん、安倍内閣の経済政策(アベノミクス)の行方も左右する。日本経済にとってマイナス方向に振れれば、高い内閣支持率が急降下することだってあり得る。安倍首相にとって死活問題に発展しかねないのだ。
 安倍首相は1月26日の衆院予算委員会で、こんなふうに答弁していた。
「粘り強くTPPについて米国に働きかけを行っていきますが、日豪2国間をみても明らかなように、TPPの働きかけを行っていけば(日米2国間の交渉は)できないんだということは、そんなことはないわけでございます」
 米国の離脱によって息の根を止められたとも言えるTPP交渉にまだ望みをつなぎつつも、多国間協定ではなく日米2国間の貿易協議も並行的に進めるという意味である。
 ところが翌27日の衆院予算委員会で安倍首相はこんなことも言っている。
「今、そもそも2国間をやるとういことはまったく決めていないわけでありますから、『この2国間を絶対にこれは排除するのか』と言われたから、そうではないということを申し上げたにすぎない」
 1950~70年代の日米繊維摩擦、80~90年代の貿易摩擦を振り返るまでもないが、TPPのような多国間協議よりも2国間交渉のほうが、双方の主張は先鋭化して泥沼化しがちである。当然、2国間協議では、米国の要求は強めになる可能性が大きい。逆に言えば、日本は厳しい立場に置かれる懸念が強い。
 多国間協議に望みをつなぐのか、2国間交渉入りを決断するのか。安倍首相の答弁は揺れているように見えるが、やむを得ない。トランプ氏の出方が読めないからである。

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