下がり続ける「格付け会社」の格付け

執筆者:大神田貴文2008年8月号

かつて企業の生殺与奪の権をにぎった存在が、いまや影響力急落。「ただの会社」になりつつある。 格付け会社とマスメディアは似ている。いずれも公的性格を自他共に認めて「格付け機関」「報道機関」と呼ばれ、他者の良し悪しを峻別するが、私企業として営利も追求する。そして時に、公平なジャッジと利潤獲得の狭間で方向感覚を失う。 現在、日本には五つの格付け会社がある。外資は、米系のムーディーズ・インベスターズ・サービスとスタンダード&プアーズ(S&P)、欧州系のフィッチレーティングスの三社。日本勢は、格付投資情報センター(R&I)と日本格付研究所(JCR)の二社だ。 日本で格付け会社の影響力が広く認知されたのは、北海道拓殖銀行や山一証券など金融大手が相次いで倒れた一九九〇年代後半である。ムーディーズの「投資不適格」の判定が企業の資金調達を難しくし、株価下落を加速させた。格付け会社が大企業の生殺与奪の権をにぎる存在として怖れられた時代だ。 あれから十年、ムーディーズの影響力は薄れつつある。「何をいまさら……」。六月三十日、ムーディーズは、かつて叩いた日本国債の格付けを昨年十月に続いて引き上げ、二十一段階のうち上から四番目と評価した。しかし、財務省ばかりか大方の市場関係者は「あくまでムーディーズの意見だから」と受け流した。実際、この格上げ発表で国債マーケットはぴくりとも動かなかった。こと日本国債に関する限り、ムーディーズ自体が市場から「格付け不適格」とみなされているかのようだった。

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