新編歴史劇『陳廷敬』を特集した雑誌『中國京劇』2018年02号(筆者提供)

 

 京劇の現状を知るうえで格好の定期刊行物でもある雑誌『中國京劇』は、中国政府の文化部文化芸術人材中心が主管している。最近手許に届いた2018.02号(2月1日発行/総第248期)の特集は、新編歴史劇の『陳廷敬』であった。 この演目は、清朝を隆盛に導いた4代皇帝の康熙帝(在位は1661~1722年)を半世紀ほどに亘って輔佐した陳廷敬を主人公に、陳夫人、康熙帝、首輔大臣の明珠、湖北巡撫(省を管轄する長官)の張汧などを配し、清廉・公平・潔癖で断固として不正を許さない陳廷敬の清官ぶりに焦点を当てたものだ。

 自らが犯した汚職事件再審のため、張汧が北京に護送されてくるシーンで舞台が開く。彼を裁く立場に立つ陳廷敬の娘の嫁ぎ先が、じつは張汧だった。つまり裁判官と被告が姻戚関係で結ばれているわけだ。かくて国法と家族、正義と肉親の情の狭間でもがき苦しみながらも、康熙帝の信頼を背景にして最後には国法と正義を貫くことになる陳廷敬の、雄々しくも清々しい姿を讃えて幕が引かれる。

 この種のストーリー展開は、伝統京劇の「清官戯」ではお馴染み。清官戯とは京劇のジャンルの1つで、清官つまり清廉で廉直な役人を主人公にしたものだ。中国では古くから「只許州官放火、不許老百姓点灯」――「州官(やくにん)」は放火をしても許されるが、「老百姓(じんみん)」は明かりに火を点すことすら許されない――と言われてきたように、役人(現在でいうなら幹部)は権力をカサに横暴の限りを尽くす存在と捉えられてきた。そんなところから「貪官汚吏」が当たり前であり、清官は極めて少ないゆえに清官戯が好まれる伝統があった。「借古諷今」、つまり舞台の上の絵空事の世界で演じられる清官の姿に拍手喝采し、昔の物語であることを口実に、観客は秘かに現実世界の憂さ晴らしを楽しんだというわけだ。

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