ベーブ・ルース死後60年に飛び出した「ふたつの新証言」

執筆者:ブラッド・レフトン2008年12月号

 野球界の偉人ベーブ・ルースの死から六十年の今年、ふたつの「新証言」が取り上げられ、その存在がいまだにアメリカの人々の意識のなかで大きいことがあらためて示された。 まずはアメリカ歯科協会報。五十三歳の若さで亡くなったルースの死因は、タバコと酒好きからかかったのどの癌という誰もが信じる通説を否定するものだった。ルースの大ファンである四十一歳のニューヨーク州の歯科医が、一年をかけて当時の記録を調べ直し、ルースは鼻咽頭腫瘍という北米では珍しい癌が原因で死亡したことを探り当てた。鼻咽頭とは鼻の後部、柔らかい口蓋の上部にある。 このウィリアム・マロニー医師による研究は、ルースの生涯のなかで痛ましかったはずの時期でも、ルースは医師たちを思いやり、薬物の治験に進んで協力し、他の人々を助けようとした、勇気と人間味あふれる人物だったことを明らかにした。ルースは、それまで人間には投与されたことのない薬物の治験の実験台となったのだ。多くの医師が反対した治験だった。 マロニー医師はルースに新たな尊敬の念を抱いたという。「私は今までルースを球場での巨人と見ていたが、今は球場外でも巨人だと見直した」と。 もうひとつの証言は、ニューヨークタイムズ紙が掲載した。あのあまりにも有名な「予告ホームラン」にまつわるものだ。

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