「アレキサンドリア」という名の白ワイン(筆者提供、以下同)

 

 歴史は人間を呪縛する。

 勝者が歴史を作る、という言い方があるが、確かに歴史は後世の人間によって編まれるもので、それゆえに、歴史は人間の認識を特定の方向に誘導する絶大な力を有する。中国や古代ローマのように、歴史にいかに名を残すかをこの世に生を受けた最大の使命ととる考え方もある。それは、歴史に自らが裁かれないようにするためである。

 国民国家が誕生したのは19世紀になってからだ。それによって歴史の地位は大いに向上した。国民国家には歴史が必要になる。新しく誕生した国家は自らにふさわしい歴史を作ろうとする。歴史は国家にとってアイデンティティになるからだ。

 だが、ある国家が編もうとする歴史は、ほかの国家がすでに編み上げた歴史と対立し、国際問題に発展して紛争となり、時に多く人間を殺すことにもなる。

 国民国家の成立のため、「世界征服」を象徴するアレキサンダー大王という歴史の巨人に、自らのアイデンティティを託そうとした国がある。それがユーゴ解体によって1991年に誕生したバルカン半島中央部のマケドニアである。私が訪れたのは、ちょうど1年前のことだった。

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