十一月十日はインドネシアでは「英雄の日」。国家英雄の業績を讃える歴史再確認の日でもある。ところが二〇〇八年の英雄の日、インドネシア国民は驚くべきテレビコマーシャルを目にした。 イスラム保守政党の「福祉正義党」の党PRのCMに故スハルト大統領が登場したのだ。CMでスハルト氏は、独立の父・故スカルノ大統領や独立戦争の英雄スディルマン将軍と同列の国家英雄として取り上げられていた。これに対し、歴史家や民主化運動の活動家からは「政府はスハルト元大統領を国家英雄として認知していない」「汚職撲滅を強く掲げる福祉正義党が汚職、腐敗、親族登用という負のイメージの元大統領を党のPRに利用するのはおかしい」などと批判が噴出した。 さらに、同党が主催した集会「国家英雄の家族との対話と親睦」にスハルト元大統領の次女ティティック氏を招待したことや、同党が独自に選んだ「最も影響力を持つ女性」の中にスハルト氏の長女トゥトゥット氏が選ばれたことも明らかにされ、福祉正義党が〇九年四月の総選挙でスハルト氏とその家族を政治的に利用しようとしていることが明確になった。 こうした動きに、ユドヨノ政権や、故スカルノ大統領の長女メガワティ前大統領が党首を務める闘争民主党などが「スハルト復権を狙う、民主化に逆行する動きだ」などと警戒心を強め、国会にCMの差し止めを求める動きを見せている。

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