いま静かに進む中台関係の大転換

執筆者:野嶋剛2009年4月号

異なる未来を夢見ながらも、いま、チークダンスを踊り始めた中国と台湾。その接近度は、まず五月に測られる。[台北発]冬の北京はマイナス十度を下回る日も多い。南の台北とは温度差が二十度はある。そんな北京と台北をおよそ三時間で結ぶ中台直航便に乗って、今年一月末の旧正月が終わった頃に、北京を内密に訪れた台湾の与党国民党の幹部がいた。 この直航便は中台関係の改善で昨年から就航。名目上はチャーター便だがすでに北京、上海など各都市と台北の間を週に百本以上が飛び、予約なしの搭乗も可能な事実上の定期便だ。かつては台湾から北京に行こうとすれば、香港や韓国、日本を経由する一日がかりの旅だった。 北京に到着した幹部は台湾問題の実務を取り仕切る王毅・国務院台湾事務弁公室主任(前駐日中国大使)に会い、こう切り込んだ。「WHO(世界保健機関)問題を何とかしないと、台湾は大変なことになります。大丈夫でしょうか」 能面のように整った顔立ちの王毅は表情を変えずに「分かっています」と強く言葉を結んだという。 WHO問題とは、今年五月十八日からジュネーブで開かれるWHO年次総会への台湾の参加をめぐる問題。WHOへの参加は、二〇〇三年の新型肺炎SARSの発生時に迅速な情報提供を受けられなかった台湾の悲願でもある。米国も日本も欧州も台湾の参加を基本的に支持し、最後は中国の賛否次第となっている。

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