だいたい母の味
2023年1月22日
母が作ってくれた料理でいちばん好きだったものはなんだろう。クリームコロッケか鶏飯か。はたまたオックステールシチューかドライカレーか。かつぶし弁当も木須肉(ムースーロー)もおいしかった。そうだ、レモンライスというのもあったっけ……。決めがたい。
私にとってクリームコロッケの最古の記憶は三歳に遡る。当時、我が家は神奈川県二宮にあった。両親はロックフェラー財団の招きによる一年間のアメリカ留学を終えて帰国した際、住む家がなかったため、知人の紹介で二宮の木造平屋を借りることにした。すでに幼い子供が二人いたが、アメリカには連れていかず、広島の兄夫婦の家に預けた。その子供二人、すなわち私と二歳年上の兄を広島から引き取って、親子四人の新たな生活が二宮で始まったのは昭和三十一年のことである。
広島の伯父伯母には子供がなかったので、夫婦は私と兄のことを実の子供のように可愛がってくれた。おかげで私は広島の生活をぞんぶんに楽しんで、父母のことなどケロリと忘れ、ずいぶんとわがままな娘に育っていた。
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