クリント・イーストウッド監督の映画『チェンジリング』では、組織の腐敗した体質を覆うため、市長と署長がすべての失策を一人の警部に押し付ける。この映画を見て、思わず日本の農林水産省を連想した。 農水省は「ヤミ専従」の実態調査に当たった秘書課の松島浩道課長と調査官を更迭。彼らは、当初百四十二人いた該当者を、何度か調査をやり直すことにより、最終的に「ゼロ」と発表していた。この隠蔽工作は指弾されて当然だが、農水省の構造を変えない限り、本当の解決は望めない。 少し説明が必要だろう。農水省の出先機関である農政事務所の職員が正規の許可を取らず出勤扱いのまま労働組合の活動に参加する「ヤミ専」は、職場慣行として認識されてきた。農政の現場は、単なる机上の作業ではない。農繁期には、自主的にサービス残業し、異常天候などの場合は昼夜を問わず働き続ける職員も多い。このため、勤務実態と帳簿上の勤務日報のずれが黙認され、労務管理が甘くなる。 厚生労働省でヤミ専従が問題になった昨年来、この問題は、農水省の人事を握る秘書課の最大の課題だった。それだけに、井出道雄事務次官や佐藤正典官房長が、彼らの言うように「報告を受けていなかった」とは考えられない。「(書類改竄という)大それたことをやっているとは驚きだ」(井出次官)とのコメントに最も驚いたのは松島氏だろう。それでも彼は黙って思いを飲み込むに違いない。農水省の構造問題の根深さを悟っているだろうから。

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