今年4月、チリはリチウム産業の国有化を発表した。写真はチリ・アタカマ砂漠のカラマにあるチリ企業SQMのリチウム鉱山(c)AFP=時事

 

 日本を含む世界の主要国は、エネルギー安全保障の強化と脱炭素化の両立を目指すエネルギー転換に本格的に乗り出している。ウクライナ危機発生まで、世界のエネルギー転換に関わる議論は脱炭素化一色に染められていた感すらあったが、状況は様変わりした。経済や暮らしを守るうえで必要不可欠なエネルギーの安定供給をどう確保するかが、ウクライナ危機によるエネルギー価格高騰及び市場不安定化の下、最重要の喫緊課題として浮上したのである。

 脱炭素化に最も熱心な国としても知られていたドイツでさえ、自国のエネルギー安定供給確保のため背に腹は代えられず、当面はCO2排出増に目をつぶる形で石炭火力発電の活用に踏み切らざるを得なかった。途上国においても、少しでも安価なエネルギー供給確保が重視され、「石炭回帰」の動きが顕在化している。

潜在的な敵対国に戦略物資の供給を依存するリスク

 しかし、こうした取り組みは、ウクライナ危機によって発生した非常事態あるいは特殊な事態への対応であり、本来的に脱炭素化への歩みを緩めてはならない、という声は大きい。そのため、世界の主要国における中長期的なエネルギー政策の「王道」は、エネルギー安全保障と脱炭素化の両立を目指すもの、と位置付けられるようになっている。

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