小国ジブチで火花を散らす大国たちの外交戦

執筆者:竹田いさみ2010年1月号

 山々の峰を飛び越え、ゴツゴツとした岩肌ばかりが続くかと思うと、突然、砂漠が眼前に現れる。その先に広がるのは、どこまでも真っ青な海だ。エチオピアの首都アディスアベバから、飛行機で「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ東北部の一角、旧仏領のジブチ共和国に向かう。日本からの直行便はないため、アディスアベバを経由して、エチオピア航空やケニア航空で入るのが一般的だ。 この小国に降り立つと、アフリカ大陸が背負わされた過酷な現実を肌で感じる。灼熱の太陽、微粒子が容赦なく吹き荒れる砂嵐、そして生命を維持するための飲料水を確保する困難さ。一日を無事に生き抜くだけで、どれほどのエネルギーを消耗してしまうことだろう。 ジブチはアデン湾に面した小国で、面積は四国よりやや大きい程度だ。人口は約八十三万人。農業や製造業はなく、国家の収入源は、フランス軍の駐留経費や、内陸国エチオピアへの貿易の物流拠点としてもたらされる外貨だ。天然塩の産地として知られるアッサル湖は誠に美しく、神秘的な魅力に包まれているのに、国際定期便が整備されていないため海外から観光客を呼び寄せられない。 自給自足の遊牧民を除けば、食料、飲料水、生活用品はすべて海外から調達するため、生活費がかさむ。首都には高級ホテルもあるが、生活用水は海水を濾過しており、シャワーをひねると深みのある塩味がする。

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