北朝鮮「デノミ・ショック」の傷痕

執筆者:平井久志2010年2月号

デノミの直後からインフレが止まらない。住民は新貨幣が「紙くず」になる前に物品購入に殺到。北朝鮮はいつまで痩せ我慢を続けられるか。 北朝鮮の「労働新聞」など党・軍・青年団体の三機関紙が元旦に掲載する「共同社説」は、その年の方向性を予見する上で極めて重要だ。金正日総書記の考える進路が表されるからである。 今年の共同社説は「党創建六十五周年を迎える今年、再び軽工業と農業に拍車をかけて人民生活で決定的転換を成し遂げよう!」と題し、最重点課題として「人民生活の向上」を挙げた。 その内容は金総書記が昨年六月に党・軍・国家・経済機関の幹部たちに行なった談話の延長線上にある。談話は国防工業を引き続き最優先視すべきとし、金属、電力、石炭工業、鉄道運輸の四大先行部門への対応を訴えながら、「食糧問題とともに生活必需品の問題を決定的に解決しなければならない」と強調していた。農業と軽工業を四大先行部門より重視すると謳った共同社説は、「人民生活の向上」が体制を維持するうえで死活問題になっていることを表す。 金総書記は故金日成主席の誕生百年である二〇一二年に「強盛大国の大門を開く」ことを目標としている。これは、政治・思想、軍事、経済のいずれにおいても強国になるとの目標だが、そのためには北の住民が「生活が良くなった」と実感できる状況を作り出さねばならない。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。