人間への理解を深め社会の改善を進めよ

執筆者:堂目卓生2010年4月号

 本連載では、ヒューム、スミス、ベンサム、ミル、マーシャル、ケインズを例にとり、過去の経済学者が人間をどう捉えたか、また、彼らの人間観が経済学説や政策提言に、どう影響したかを見た。 ヒュームは、経済学を含むあらゆる学問の基礎として、人間研究が不可欠であることを主張した。しかしながら、ヒュームは、経験主義の立場を貫き、人間が本来何を求める存在であるかについての、先験的な仮定やイメージをもつことを避けた。このことが原因となって、ヒュームは経済学の体系を構築するには至らなかった。 ヒュームの主張を受け継いだスミスは、人間を利己心とともに同感という社会的性質をもつ存在、すなわち、他人に関心を持ち、また他人からの関心を求める存在と考えた。スミスは、この人間観の上に、富を増大する普遍的法則に関する学問、すなわち経済学を打ち立て、また、現実を普遍的法則が示す本来の状態に近づけるために何がなされなければならないかを論じた。 ベンサムは、スミスの仮定を単純化し、同感もまた利己心に還元できると考えた。彼の単純化は、人間の社会性に注目することの意義を弱め、経済学において人間を社会から独立した存在として扱う道を開いた。

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