この四月、介護保険制度がスタートする。少子高齢化社会の到来に対応する新しい社会システムを構築する試みだが、介護の二文字が新聞紙上にない日がないほどで、介護という言葉を軸に世の中は大きく変わり始めた。 ところが、「介護」なる言葉は、二〇年ほど前にある人物によって造語され、商標登録されていることをご存じだろうか。 東京・両国。昔ながらの問屋や小さな工場が点在する下町に、水泳帽や学童用水着で五割のシェアを持つ水泳関連用品メーカー、フットマークの本社がある。社長の磯部成文が、「介護」を生み出し、商標登録を持つ人物である。「いろいろ使われていますが、商標登録違反だと訴えるつもりなど毛頭ありません。介護の二文字に託した思いを世の中の人に知ってもらえるならば、それだけで充分ですよ」と磯部はいう。 磯部がなぜ介護という言葉にいきついたのか。そのプロセスが面白い。 フットマークは戦後の一九四六年、父親である先代が創業した磯部商店が前身だ。ベビーブームを当て込みゴム引き布を使って赤ちゃん用のおむつカバーを作る会社だった。先代が早世したことから磯部は二六歳で会社に入り、母親と共に事業を担うことになる。 ゴム引き布のおむつカバーは、夏場になると蒸れてしまうために需要が減る。しかも戦後のベビーブームは峠を越していた。磯部が入社した六七年の出生数は一九三万人と、ピーク時に比べれば八〇万人近くも減少していた。さらには使い捨てで価格も安い紙おむつが出現する。磯部商店は事業存続の岐路に立たされる。

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