ローマ法王ヨハネ・パウロ二世が三月二十日から二十六日まで、ヨルダン、イスラエル、パレスチナを歴訪した。法王は二月、預言者モーゼが「十戒」を授かったシナイ山(エジプト)を訪れたのを皮切りに聖地巡礼を行っているが、イスラエルとパレスチナの訪問は最大のハイライトでもあった。

 中東和平交渉をめぐる綱引き、ユダヤ教徒とキリスト教徒の歴史的確執と、政治、宗教、民族の対立が渦巻くこの地を訪れる法王はどのようなメッセージを投げるのか。各国の耳目が法王の一挙手一投足に集まった。というのも、この地では何人もの外国の首脳がその言動で痛い目にあっているからだ。イスラエル側にもパレスチナ側にも踏み外すことは許されない。ここでは地雷原を行くがごとき繊細な神経とバランス感覚が要求される。

 今年二月、イスラエルを訪問したジョスパン仏首相は、南部レバノンのイスラム教シーア派民兵組織の活動を「テロ」と表現し、パレスチナの人々の憤激を買った。あわてて訂正したがもう遅い。外交を専管事項とするシラク仏大統領との齟齬も露呈するなど、国内政治にまでハネ返った。クック英外相が「入植地建設が中東和平の阻害要因」であることを示すため東エルサレムのユダヤ人入植地を訪問し、これに激怒したネタニヤフ首相が歓迎晩餐会を中止したことは二年前にこのコラムでも紹介した。

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