「労働界、学術界、文化、芸能、市民運動に至るまで、米秘密工作の跡をたどった。日本国民の対米観を改善し、『親米』『反共』心理を醸成する心理作戦を展開していたことも分かった。アメリカは日本人の意識改革に成功したと言っても過言ではない」(春名幹男『秘密のファイル――CIAの対日工作』共同通信社刊 上下巻各一八〇〇円)

 数年前、ニューヨークタイムズが、一九五〇、六〇年代にCIAが自民党に資金援助をしていたことを暴露し、大きな話題を呼んだが、これまでもCIAの対日秘密工作については、断片的には報じられてきた。しかし、堅固な証拠が提示されたことはなかった。

 そんな中、本書の最大の功績は、米国立公文書館で膨大な量の秘密文書を発掘、情報関係者への直接取材を敢行し、CIAの対日秘密工作の実態を、初めて包括的に検証したことにある。取り上げられているのは、真珠湾攻撃直前の日米情報戦の内幕から、戦後の占領期の怪事件の真相、六〇年安保・沖縄返還の舞台裏での工作に至るまで幅広い。興味尽きない数々のエピソードに満ちていて、スパイ小説も顔負けの面白さだ。

 とりわけ、歴代のCIA東京支局長の実名と素顔を明かした点は画期的だ。吉田茂や佐藤栄作といった戦後の代表的な政治家がどう米情報機関と付き合ってきたかについても詳細に描かれている。「CIAは日本の歴代首相および、次期首相候補の周辺に、情報提供者を確保してきた」というCIA関係者の証言は衝撃的だ。

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