幻となる可能性もあるクリントン大統領訪朝

執筆者:落合秀光2000年10月号

 北朝鮮ナンバー3で軍部の実質的なトップである趙明禄国防委第一副委員長が訪米して行なわれた米朝会談は朝鮮戦争以来続いていた敵対関係を終結させることを確認した点では歴史的な意味があったが、テロやミサイル問題など懸案事項では具体的な進展はなかった。米朝会談の最大の成果はクリントン米大統領の訪朝準備のためにオルブライト国務長官が十月中に訪朝することで合意したことだ。一連の会談の核心となる協議は朝鮮労働党創建五十五周年の日である十月十日に、クリントン大統領と趙副委員長との間で行なわれた。 趙副委員長はこの場で金正日最高司令官(党総書記)の親書を手渡し、金最高司令官の「いくつかのアイデア」を伝達した。この金正日構想の内容は明らかにされていないが、朝鮮半島の平和保障体制を構築するための提案と国交正常化プロセスなどが中心で、それを協議するためにクリントン大統領の訪朝を求めたものとみられる。クリントン大統領は金正日構想に関心を示し、訪朝に前向きの態度をみせた。 趙副委員長はこの日の夕食会で「金正日国防委員長は共和国(北朝鮮)の自主権や領土保全に対する米国の安全担保さえ確認されれば、米朝の不信と対立の関係を新たな平和関係、親善関係に転換させる重大決断をするだろう」と述べた。どうやら金最高司令官は米国が北朝鮮の安全を保障してくれれば国交を樹立するとクリントン大統領に提案し、米朝平和協定締結に関連した自身の構想を示したものとみられる。

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