一気に悲観が蔓延した米国経済

執筆者:二村誠2001年4月号

ブッシュ政権の経済チームが市場から信頼を欠く中で[ワシントン発]四月四日、欧米金融市場をある噂が駆け巡った。「ルーセント・テクノロジーズ社がチャプター・イレブンを申請する」――。チャプター・イレブンとは連邦破産法十一条のことで、要するに企業倒産だ。米通信機器最大手ルーセントの株価は前日比三割安と暴落。一九九六年の株式公開時の価格を割り込んだ。ルーセントは「根拠のない噂だ」と緊急声明を発表し火消しにまわったが、市場の疑心暗鬼は消えなかった。 ルーセントに限らず通信機器メーカーの経営は苦境に陥っている。ルーセントに次ぎ北米二位のカナダのノーテル・ネットワークスも今年に入りわずか三カ月余りで三回の業績下方修正に追い込まれている。ネット・ブームを当て込んだ過剰投資と過剰債務に悩む米通信会社からの需要が、急速に縮小しているためだ。昨年春のネットバブル崩壊の悪影響が、新興ネット企業から有力企業にまで及んできていることを裏付けている。 金融界にも暗雲が垂れこめてきた。ルーセント破産説と前後して、大手米銀バンク・オブ・アメリカの経営悪化の噂も流れた。ルーセント社への融資が多いバンク・オブ・アメリカの経営にも影響が及ぶとの連想からだ。事実、米連邦預金保険公社(FDIC)の調べでは、FDIC加盟八千三百十五行の不良債権残高は昨年末時点で約四百三十億ドル(約五・二兆円)と、前年比で三〇%増加した。総資産に対する比率はまだ低いものの、昨年後半から不良債権は増勢が強まっている。ウォール街でもチャールズ・シュワブ、クレディ・スイス・ファースト・ボストンなど大手金融機関が相次ぎ人員削減を発表、需給が逼迫していたニューヨークのオフィスやアパートなど不動産市場も急速に緩んできている。

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