活字中毒者たる私の三冊

執筆者:成毛眞2001年7月号

 物心ついた時にはすでにSF少年で、この四十年間、常に本に取り囲まれて生きてきた。というか、身近なところに本がないと安心出来ない私は、典型的な「活字中毒」なのだ。ネットで注文するようになったこの二年で八百冊以上の本を取り寄せているし、いろんなところから送られてくる本が毎月二十冊くらいある。ネット以外に自分で本屋で買っているのは年に四百冊から五百冊。結局、平均すると年に七百冊から八百冊の本に目を通している計算になる。 真っ先に手が出るのはSF。アーサー・C・クラーク、アイザック・アシモフはじめ、好きな作家の本はたいてい全部読む。経済小説や面白そうなノンフィクションも放っておけない。「イカレた科学者本」も大好きだし、歴史本も捨てがたい。近世の文化に興味があるうえ「飲み屋で芸でもやってもててやろう」などというささやかな願望もあるから歌舞伎や建築の本も読んだりする。本業の経営や経済関連の本にももちろん目を通す。結局、本を読んでいる合間に仕事をしているようなものだ。 数あるお勧め本の中から今回は三冊を選んでみた。『利休 茶室の謎』(瀬地山澪子著、創元社)は、一昨年ガンで亡くなったNHKの女性ディレクターの手によるノンフィクション。利休作と言われる現存する唯一の茶室(京都・山崎の待庵)の意匠、すなわち「にじり口」や「小間」が、実は朝鮮半島における儒教学者の居室の模倣だったことを解き明かしていく。堅そうなテーマだが、NHKの『歴史誕生』の番組作りと並行して語られており読みやすいうえ、「小間(コマ)」が実は「高麗」から転じた読みだったらしいことに気付くなど、謎解きの面白さもある。私は、趣味のダイビングでちょくちょく沖縄に行くのだが、東アジア文化圏の中にある沖縄では朝鮮や中国の意匠を目にすることが多い。夏休みを沖縄で過ごされる読者は、海辺でこの本のページを繰るのも一興だろう。

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