フィオリーナとブルース

執筆者:梅田望夫2002年6月号

 昨年九月三日の発表から約八カ月、ヒューレット・パッカード(HP)とコンパック・コンピューターがようやく合併した。 HPの発行済み株式の約一七%を保有する共同創業者一族(ヒューレット家とパッカード家)が十一月上旬に合併反対を表明してからの半年は、取締役会、株主総会、裁判所と舞台を移しながら、美貌のカーリー・フィオリーナHP会長兼CEO(最高経営責任者)と創業家との熾烈な戦いが延々と続いた。そして結局は、勝つことに惜しみなく全力を尽くしたフィオリーナの勝利に終わり、共同創業者一族の代表ウォルター・ヒューレット取締役は「私が知っているHPではなくなってしまう」という裁判所での言葉を最後に、取締役会から叩き出された。「何がフィオリーナをそこまで駆り立てるのでしょうね」 私はこの半年間、何人もの日本人ビジネスマンから同じ質問を受けた。HPは日本企業に似た「人を大切にする」社風で有名であった。だから日本的経営とアメリカンスタンダードの対立に似たこの構図は、日本人にとって、決して他人事ではなかったのである。「彼女は自分がやっていることを絶対に正しいと信じて疑っていないから、なぜそこまで、と他人が忖度しかねていること自体を全く理解できないのだと思いますよ」

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