「瀋陽総領事館事件」の真実

執筆者:伊藤正2002年7月号

ビデオの映像は、たしかに衝撃的だった。だが、駆け込み事件に対する日本での捉え方は、あまりに表面ばかりを見過ぎている。外交上・条約上の正しい理解と、“脱北者”たちの置かれた状況を踏まえ、問題の根源を論議すべきではないか。[北京発]北京の外国公館街は今、戒厳状態さながらだ。ほぼすべての公館が有刺鉄線に囲まれ、正門前に防護柵をめぐらしている所も少なくない。中国武装警察が二、三十メートルおきに立ち、通行人に鋭い視線を向ける。大使館沿いを歩くと、反対側へ行けと指図され、しばしば身分証明書の提示を求められる。 十三年前の天安門事件前後にもなかった厳しい警備は、昨年九月の米中枢同時テロ事件の後、米国はじめ幾つかの国の大使館周辺から始まった。米軍などによるアフガニスタン攻撃開始後には、道路封鎖地区が増えたが、厳戒対象は、国内イスラム勢力のテロを受ける可能性のある西側の公館に限られていた。 それが現在は、ほぼ全公館に拡大した。北朝鮮脱出者(脱北者)の「亡命駆け込み」防止のためである。「ほぼ」というのは、武装警察の大使館警備を断っている国(カナダ)や、商業ビル内に公館施設の一部を置いている国(日本、英国など)もあるからだ。むろん北朝鮮は例外だが、脱北者が近づくはずのないリビアやイラクなど北朝鮮の友好国の公館でも、有刺鉄線で囲まれているのである。

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