アメリカを蝕む「法の下の不平等」

執筆者:斉藤大輔2002年9月号

エンロン元幹部たちは逮捕されず、政権の疑惑は追及されない――。「法の下の平等」を保障するはずの司法が、政治に翻弄されている。ブッシュ政権は米国流民主主義の基盤を自ら捨て去るのか。[ワシントン発]米議会が夏期休会入りする直前の八月一日早朝。腕を後ろに回され、両脇を二人の捜査官に抱えられながら車に乗り込む二人の男の姿がテレビに映し出された。負債総額四百十億ドルという米企業史上最大の倒産劇の舞台となった通信大手ワールドコムの前CFO(最高財務責任者)、スコット・サリバンと、前経理部長のデビッド・マイヤーズ。二人はニューヨーク市内の連邦捜査局(FBI)に出頭し、そのまま身柄を拘束された。 二人の逮捕から間をおかずワシントンで記者会見を開いたアシュクロフト司法長官は笑みを隠しきれなかった。「両容疑者は証券詐欺と同共謀、会計書類の不実記載などの罪で拘束された。起訴され、有罪が確定すれば、最高で六十五年の投獄ということになる」。同長官は不正の摘発を誇示するように言い放った。 昨年十二月の総合エネルギー大手エンロンの破綻以降、次々と明るみに出る企業スキャンダル。株式市場には企業不信が渦巻き、株価下落の過程で損失を被った一般投資家は「infectious greed(伝染性の貪欲さ)」(グリーンスパン米連邦準備制度理事会議長)に感染していた企業経営者たちに怒りの矛先を向けている。事態を重く見たブッシュ政権は七月三十日、企業経営者の不正への罰則を大幅に強化する「企業改革法(通称サーベンス・オクスリー法)」に署名すると同時に、不正の摘発強化を発表。その二日後のワールドコム幹部逮捕は、こうした流れに沿うものだった。米司法当局は、七月二十四日には、六月に破綻したケーブルテレビ大手のアデルフィア・コミュニケーションズの前CEO(最高経営責任者)、ジョン・リガスらも逮捕している。

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