「委員会等設置会社」という劇薬

執筆者:喜文康隆2003年7月号

「現代史というものが面倒なのは、すべての選択がまだ可能であった時期を人々がまだ覚えているためであり、これらの選択が既成事実によって不可能になっていると見る歴史家の態度を受け容れがたいと感じているためであります」(E. H. カー『歴史とは何か』)     *「委員会等設置会社」。まるで木に竹を接いだような名前の新制度が、今年四月からスタートした。この制度の詳細を正確に理解している人は少ないに違いないが、これは大企業役員だけでなく従業員の行動原理すらも変えてしまう「劇薬」である。 二〇〇二年一月十六日に法制審議会がまとめた商法改正要綱案によれば、「委員会等設置会社」とは、資本金が五億円以上か負債総額が二百億円以上の大企業を対象に、これまで取締役会と監査役会という二元的な監督で運営されてきた体制から、監督と業務執行を明確に分離して、監督業務を取締役会に一本化することを選択できるようにした制度である。 ちなみに既存の監査役制度を継続する場合でも、監査役に取締役会への出席を義務付けていることや、外部監査役を半数以上にすることを義務付けるなど、従来にくらべて大幅なチェック機能の強化が求められている。わかりやすくいうなら、米国流の執行と監督を分離した取締役制度によるガバナンスか、従来の監査役制度によるチェック・アンド・バランスかの選択を、既存の経営者に迫るものと言える。

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