偉大なる二番煎じ、というべきか。ベトナム戦争を題材に、ケネディ、ジョンソン政権のアメリカ政治外交エリート達のドラマを描いた著作『ベスト&ブライテスト』で一世を風靡した鬼才デービッド・ハルバースタム。その後、メディア、経済、技術など幅広いテーマでアメリカ社会に鋭い分析を加えてヒット作を飛ばしてきた彼の最新作の舞台は、三十年ぶりに外交と安全保障となる。『静かなる戦争――アメリカの栄光と挫折』(PHP研究所)が暴いて見せるのは、冷戦終結時のブッシュ・シニア政権から、クリントン時代、そしてブッシュ・ジュニアが大統領となるまでの、およそ十年間のアメリカ外交の迷走である。 アメリカ社会のエリートを風刺する流行語となったかつての著作の題名『ベスト&ブライテスト』に比べると、今回のタイトルはもったいぶりすぎているのが残念だが(これは原題“War in a Time of Peace”の問題であろう)、読者を圧倒する情報量、政府高官や軍トップの心情と関係性を抉り出すような筆致とそれを支える取材力は、さすがハルバースタムである。 国際関係学を教えていると、ときどき学生から鼻息荒く聞かれることがある。「国際政治学なんて意味あるんですか? 結局、ブッシュだってシラクだって、自分の利権のために戦争したり、反対したりするんですよね。そんなの、いくら考えたってどうしようもないじゃないですか」。

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