「なまけること」の大切さ

執筆者:成毛眞2004年2月号

 東京新聞の「わが街わが友」という東京を題材とした名物連載で、生粋の江戸っ子であるNECの高山由顧問を紹介したことがある。パソコンの黎明期に市場を席捲したPC98シリーズの生みの親と呼ばれ、向かうところ敵なしの状況を作り出した人である。 記事ではパソコンのことではなく、「ひ」と「し」の発音の区別がつかなくともNECの専務として活躍できたが、下町のお好み焼き屋で飲んでいると、つい江戸っ子の小学生に戻ってしまうという話をした。 しばらくして、高山さんからお手紙を頂戴した。 数十年ものあいだ仕事一筋に突っ走ってきたが、やっと一段落つき、今では奥様同伴で月に二千キロ以上もドライブ旅行を楽しんでいるとのこと。黒塗りハイヤーでは味わえない自由を満喫している様子にご同慶の至り。 いただいた手紙の最後のページで、筆者名のルビを見て初めて気が付いたことがあると嬉々として伝えてくれた。いわく「なるけまこと」の文字を入れ替えると「なまけること」になる。そこで怠けることの大切さを知ったとのことである。笑っていいのか怒っていいのか判らない。 お返しである。「たかやまよし」を入れ替えると「蒲田香具師よ」になるのだ。NECの本社は田町なのだが、場所の誤差は無視して、高山さんはPC98を香具師風に売っていたことを思い出した。

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