マネーロンダリング(資金洗浄)目的などで不正に持ち込まれた資金に対して、スイスがかつてないほど厳しい姿勢をみせ始めた。 昨年十月にペルーのフジモリ元大統領の隠し資産とみられる資金を凍結、ペルー政府との司法共助に乗り出したほか、十二月には日本の山口組系暴力団によるヤミ金融事件にからんで持ち込まれていた資金も凍結、日本の捜査当局への協力姿勢を打ち出している。第三者には絶対に情報を漏らさないことが「売り」だったスイスの銀行界の姿勢変化にもみえるが、実際は「不正資金の温床」という諸外国からの批判をかわすための、したたかな戦略が見え隠れする。 これまでもスイスの銀行には世界の独裁者が隠し資産を持つ例が少なくなかった。フィリピンのマルコス元大統領や、ナイジェリアのアバチャ元暫定統治評議会議長、ユーゴスラビアのミロシェビッチ元大統領の預金が発見され凍結されている。マルコス元大統領の隠し資産については昨年、スイス連邦最高裁がフィリピン政府への返還を許可する決定も下した。こうした不正蓄財の返還が決まったのも初めてのケースだ。 ではスイスの銀行の強さの源泉とも言われる「銀行守秘義務」が消え去るのか、というと決してそうではない。欧州連合(EU)との間では、口座情報の提供はしない代わりに、非居住者が持つ預金にかかる三五%の利子課税で得た税額の七割強を居住国に分配することで合意。「銀行守秘義務」の規定は守り抜いた。資金洗浄や犯罪にからむ資金については、外国当局に積極的に情報提供する姿勢を強調することで、スイスの銀行界のクリーンさをアピール、銀行守秘義務規定が「不正資金の温床」になっているという批判を封じ込める狙いがある。

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