日本のバブル崩壊が研究される理由

執筆者:五味康平2004年4月号

 胡錦濤主席―温家宝首相の指導部にとって二年目のスタートとなる全国人民代表大会(全人代)は、景気過熱への警戒と成長路線の追求に政府自身が悩む姿を示した。温首相の政府活動報告は昨年の九・一%成長の実績を誇示し、一人あたり国内総生産(GDP)が千ドルの大台に乗ったことに自信を示した。一方で、今年は「マクロ規制を強化する」と宣言、地方で目立つ過剰な設備投資、インフラ建設を厳しく制限する方針を打ち出している。「過剰流動性、不動産バブル、行き過ぎた生産能力の増強などが高成長の実態」との認識は中国の国内でも広がっており、引き締め姿勢の表明は当然ともいえる。 問題は中国政府がブレーキをどこまで踏み込むかにある。ブレーキを踏みすぎれば、失業の増大、国有企業改革、銀行の不良債権処理など「経済成長による解決」を狙ってきた問題が一気に深刻化しかねないからだ。温首相が「有利な時期をとらえて、経済体制の改革を深化させる」と強調している発想はまさにここにある。 中国政府が特に不安を持っているのは、不動産バブル崩壊による四大国有商業銀行の不良債権問題の一段の悪化だ。昨年秋以降、人民銀行(中央銀行)のエコノミストが研究を命じられた重要なテーマのひとつが「九〇年代の日本の不動産バブル崩壊と銀行経営」だった。政府は全人代前までに中国銀行と中国建設銀行に合計四百五十億ドルの資本注入と三千億元(一元=約十三円)の政府持ち株の放棄を決めた。不良債権の償却、上場までを一気に進める考えだが、不動産バブルの崩壊が起きてしまえば、この起死回生の銀行再建策も崩れる。

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