良好な日米関係に「落とし穴」を掘るもの

執筆者:伊奈久喜2004年5月号

現在の対米批判は、アメリカを、そして日米関係を、あまりに一面的に見すぎてはいないか。歴史に照らせば、松岡洋右の過ちを連想させる。 四月三日、横浜開港広場――。春の陽光を浴び、日米和親条約締結百五十年記念式典が開かれた。林大学頭とペリー提督が一八五四年に条約に署名した同じ場所に小泉純一郎首相、ベーカー駐日米大使らが集った。ブッシュ大統領はビデオメッセージを寄せた。 ワシントンでは百五十年前に条約が結ばれた三月三十一日に記念式典を開いた。国立公文書館に加藤良三駐米大使、アーミテージ国務副長官らが集り、米側は保管している条約日本語原本を複製にして日本側に贈った。日本側原本が江戸城の火災で焼失し残っていないためだ。 日米関係は質量のある立体である。これを縦と横に切り、垂直および水平断面を観察する。縦軸で切った垂直断面に現れるのは百五十年の時間の流れである。歴史の教訓も発見できる。横軸で切った水平断面には多様な日米関係の現状が現れる。現在の問題点が発見されれば、垂直断面で得た歴史の教訓を踏まえた処方箋が解決に役立つ。 現時点の日米関係の水平断面を眺めてみる。横浜、ワシントンの記念式典が示唆するのは、小泉・ブッシュの首脳間関係、加藤・アーミテージ関係に象徴される外交実務者間関係が良好な点であり、それはどうやら客観的事実でもある。さらに視野を広げ、関係全体を見ると、良好な政府間関係に批判的な知識人が少なくとも日本側に存在する。

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